あんらくし

考えたことのメモなど

神話としての「ドグマ・マグマ」試論

■はじめに


大森靖子「ドグマ・マグマ」Music Video/YOUTUBE Ver.

「ドグマ・マグマ」とは、超歌手・大森靖子さんが3月15日にリリースされたアルバム「kitixxxgaia」の一曲目のことです。
すでにいろいろな形で解釈がなされている歌ではありますが、自分なりに歌詞の解釈を試みたのでそれについてまとめてみようと思います。
(他の方の解釈をきちんと読みこめていないので、どなたかと重なっていたりするかもしれないです。また、あくまで試論なのでどこかしら矛盾があると思われます。)
 
歌っている「あたし」が語る「神話」としての曲であると解釈することができるのではないか、というのが私の考えです。それについて、歌詞を引用しつつ書きます。「神話」の定義ですが、ここでは「神様についての話」くらいであると思っていただければと思います。
 
むかしむかしあるところに男と女とそれ以外がいました
むかしむかしあるところに白黒黄色それ以外がいました

 

「あたし」がみている世界のことをわかりやすい言葉で語ったのがこの部分だ。たぶん年若い「あたし」が、自分なりに把握しているまわりの世界の枠組みを説明してくれている部分。
 
 
むかしむかしあるところにYESとNOとそれ以外があるのに
いつもいつもことあるごと それ以外はなかったことにされました

 

自分の周りの世界のことを説明したあと、「あたし」は自分の中身について語り始める。何か一つの問に関して、「YESとNO」だけでない答え(保留にする、半分YESで半分NOなど)があるということは知っていてもそれを選択することができない自分についての話。
例えば、「俺と付き合ってよ」と告白されたとして「いいよ」と「ごめんなさい」以外にも「ちょっと考えさせてください」や「あなたのことまだなにも知らないんだけど…」のようなどちらでもない答えを返す勇気や余裕がないこと。
例えば、「大丈夫?」という問いかけに対して「大丈夫です」と「大丈夫じゃないです」以外にも「今精神的にとても不安定で、大丈夫かどうかもちょっとわからないです」という曖昧な答えを返したら困らせてしまうだろうと思って「大丈夫です」というハッキリした答えを選んでしまうこと。
 
「それ以外」をなかったことにしているのは「あたし」なのではないのか。いろいろな答えがあることを知りながら、自分の本音が別にあることをわかった上で「YESとNO」のどちらかしか選択できない自分について客観的に皮肉っているような。
 
目が覚めたら あたしはジャパニーズ
神樣なのに化粧をしないと
外にも出れない 不便なからだ
革命途中よ どーしてくれるの
 
そんな「あたし」は、自分のことを「神様」としてこの物語を語っている。ほんとうは「神様」なんだけど、なぜかある日目が覚めたらごくごく普通な「ジャパニーズ」の女の子になっていたのだという状況把握。たとえ「神様」であっても、今は平凡な人間の姿をしているわけだから「化粧をしないと外にも出れない」。化粧をしたければすればいいし、したくない日は別にしなくたっていい、自由なはずの「神様なのに」こんな「不便なからだ」に生まれてしまうなんて!という理不尽さ。
「あたし」はあまり自分の顔が好きではない(満足していない)から、クラスのかわいい女の子や憧れの可愛いモデルの子みたいになりたいと思っている。だけど、本の中でみる「神様」のように自由自在に姿を変えたりすることはできないから「化粧」をしたりすることによってそれに近づこうとしているのではないか。それでも、頭のてっぺんから足のつま先まで全てが自分が納得いくような姿になれるわけではないので「革命途中」。「あたし」はそんな「革命途中」の姿で人前に出て生きていかなくてはいけないなんて「どーしてくれるの」と思っている。
 
心をーつなんて ふぁっく YOU
ふぁっく ALL にするから"戦争"なんでしょ
 
あまり意識しないだけで無数にある自分の心(「嬉しい」と同時に「悲しい」こともあるし、「死にたい」と同時に「死にたくない」こともある)を、無理やり「一つ」にするなんて「ふぁっく YOU」だと思っている。ある一つの心だけをとりあげて自分の本音だというのは、それ以外の心を軽んじて蔑ろにしていることと変わらないからだ。そんなことをしてしまう自分に対して「ふぁっく YOU」という評価を下している。「YOU」といいながら、くたばって欲しいのは自分なのだと解釈できる。
「ふぁっく YOU」が「ふぁっく ALL」になるのはどんな時か。いいかえると、敵意の範囲が個人から全体へと広がるのはどんな時か。ここでは、世界規模ではなく「あたし」の基準で考えたい。
「あたし」が自分の心を無理やり一つにした時について考えてみる。
例えば、ある友人について「好きだ」と思う心もあれば「嫌いだ」という心もある。今日は好きだけど明日は好きじゃない、でもいいし食べ方が汚いのは嫌いだけどジュースのストローを噛む癖は好き、でもいいはずなのに無理やり「心を一つ」にしてしまったら歪みが生じる。
「好き」だと思い込んでしまったら、嫌いなところが目につくたびに気になってしまってどんどん嫌いになってしまう。
「嫌い」だと思い込んでしまったら、好きなところがあっても「嫌い」な人だし…と思って純粋に好きになることはできない。ストレスがかかって嫌いになっていくだろう。
このように「心を一つ」にした結果として、その人(もの、もしくは世界)に対して「ふぁっく ALL」という敵意を向けることになってしまう。「あたし」が誰か(何か)に敵意を向けてしまった時、「"戦争"」がはじまるのだ。
「あたし」はそんなこともう知ってるわよ、当然でしょと言わんばかりに「ふぁっく ALL にするから"戦争"なんでしょ」と言って「心を一つ」にしようという考えや試みを否定する。では、どうすればいいのか。
 
バラバラハートであいらぶYOU
らぶ ALL できないから 無限に あいらぶゆーを重ねて成りますGOD

 

その解決方法について「あたし」は上のように述べている。何か(例に挙げたような「人間」だけではなく、「もの」や「世界」)の全てを好きになる(「らぶ ALL」する)ことは難しい。好きも嫌いもごちゃ混ぜの、「バラバラハート」を無理に統合して「一つ」にする必要はない。「バラバラハート」のまま愛せばいいというのだ。
世界(自分)の全てを愛することはできなくても、その一部(人であったり、ものであったり)を愛することはできる。あれが好き、これが好きを「無限」に「重ねて」いくことで「GOD」に成れるのだと「あたし」は言う。
神様ではなく、ただの人間である「あたし」が自分を「神様」として語っている理由がここで明かされたのだ。
例えば、自分のことは嫌いだけど音楽・ご飯・友達・猫・文学…が好きな人がいるとする。自分の全てを好きになれなくても、「バラバラハート」のまま好きなものを好きな気持ちを無限に重ねていくことで自分の一部を認めて好きになっていくことはできる。好きの気持ちを積み重ねて、自分の世界で全てを司る神様になることはできる(自分の好きなことを好きなようにできる)ということ。
 
ドグマ・マグマ・ドグマ
ドグマ・マグマ・ドグマ
ドグマ・マグマ・ドグマ
 
外にも出れないGOD
 
(「ドグマ」、「マグマ」、「ドグラ・マグラ」、「カルマ」が入り乱れることの意味についてうまく考えがまとまっていないので言及は控えます。)
 
このシーンは、「神様」である「あたし」の精神状態の混乱を表しているように思う。何か嫌なことがあって、部屋でうずくまって泣いているようなイメージ。ぼろぼろだから「外にも出れない」。
 
私に生きる意味がないと おまえが決めるなさっさとアーメン
神様だとも知らないで アーメン アーメン さっさとアーメン

 

どうにかこうにか気持ちをたてなおした「あたし」による反論がはじまる。他者からの言葉(「死んだ方がいい」というような直接的なものだけでなく、「なんでそんなつまらないものが好きなの?」と自分が重ねてきた好きを否定されることだとか、とにかく自分を否定するような言葉)に傷ついた「あたし」は、そこで折れてしまうのではなく「私に生きる意味がないと おまえが決めるな」と言い切ることができる強さを持っている。「あたし」は自分の世界を統べる「神様」だから、「おまえ」に価値を判断されることなんてないのだ。
(「アーメン」という語についてうまく意味を理解できていないので言及は避けます…。)
 
結婚別にしたくないし
満たされてるのに心配しないで

 

「女は結婚すべきだ」「結婚したら幸せになれる」というような考えを押しつけてくる世間への反論。結婚を考えていなくたって、好きなものへの好きな気持ちを重ねている「あたし」は「満たされてる」。
 
システムーつ作るごとに
マイノリティ もつくった罰として
死んだ目をしたジャパ二ーズ

 

世界の運営を楽にするために作られた「システム」によって、その「システム」を利用できない(対象ではない)「マイノリティ」が生まれてしまっている、という現状認識。そんな状態に違和感を持たずに生きるため、人々は「死んだ目」で生きることになってしまった。違和感を見て見ぬ振りをすることでことなきを得ている人々についての批判。目が覚めたら「ジャパニーズ」だった「あたし」の周りの人々とは、「あたし」と同じく「ジャパニーズ」である。
 
死ねば死ぬほど生きられる現代
クソでもブスでも 世界を変えたい
ほら あなたももう死んでるでしょ

 

現状を正しく把握して思考するという機能が「死ねば死ぬほど」楽に生きていける。たとえ今の自分が「クソでもブスでも」、それを理由に思考停止するのではなく「世界」(もしくは自分)を「変えたい」と思って考えることをやめてはいけない。
死なずに考え続けるということはけして楽なことではないから、いつのまにか思考をやめてしまっているという人も多い。ほら、あなたの(考える機能)ももう死んでるでしょ。
 
世界が消えてった夜も
"世界が消えた"ということがあった

 

自分にとっての「世界」が「消えてった夜」(例えば、しぬほど辛いことがあったり、嫌なことが重なりすぎてもう全部どうでもよくなったりして、翌朝予定があるのに布団の中で泣き続けた夜)があったとしても、「世界」がなくなったり終わったりすることはない。「あたし」がしぬほど苦しんで、「世界が消えてった」と思ったとしても「あたし」を取り巻く「世界」はただいつも通りに存在している。「あたし」は、その世界を生きている以上いつかは「世界が消えてった夜」を終わらせて朝に進んでいかなければいけない。(例えば、人生無理、全部無理と思ってしぬほど泣いても、翌朝はアラームで起きて学校や職場に行かなくちゃいけない)
たとえ朝になって普段通りの生活に戻ったとしても、その「あたし」は一度「世界が消えてった夜」を通過した「あたし」であり、「世界」だって一度消えてった「世界」だ。
昨日の「あたし」(「世界」)と今日の「あたし」(「世界」)は断絶しておらず、地続きである。だからこそ、朝になってから「"世界が消えた"ということがあった」と昨日のことを記しておく必要がある。「あたし」は、昨日の自分があって、そのうえで今日の自分が存在するのだということをきちんとわかった上で生きているのだ。
 
考えろ感じろTOUCH MY YES
あの世もこの世もそれだけが ゼロじゃないもの
誰でもなれますGOD

 

思考が「死ねば死ぬほど生きられる現代」において、考えることは忘れられがちである。既存のシステムを受け入れ、思考停止して死んだ目で生きていくのではなく、「考えろ感じろ」、そして「TOUCH MY YES」と「あたし」は言う。自分が触れた人やものごとについて、頭を使って考え、時には理論に拘らず感覚的にとらえる。それを繰り返していくことによって、「死んだ目をしたジャパニーズ」を脱して、「誰でも」「GOD」になれるのだ。
「あの世もこの世もそれだけが ゼロじゃないもの」とあるように、「あの世」(=ある人の一生)も「この世」(=この「あたし」の一生)も世界全体に対してどんな価値があるかなどということはわからない。自分の人生には何の意味もない、生きている意味がわからないと悲観的に言っているのではなく、誰の人生にだって今の時点で明確な意味はない(=「ゼロ」)という事実を述べているだけなのだ。
 
心をーつなんて ふぁっく YOU
ふぁっく ALL にするから"戦争"なんでしょ
バラバラハートであい らぶYOU
らぶALL できないから 無限に あいらぶゆーを重ねるスタンス

 

自分や世界を「らぶALL」することはできずとも、好きなものや好きなことに対する「あいらぶゆー」を無限に「重ねるスタンス」をとることによって自分や世界を統べる神様になることができる。
 
 
世界が消えてった夜も
"世界が消えた"ということがあった
考えろ 感じろ TOUCH MY YES
あの世もこの世も 君だけが ゼロじゃないもの
誰にも似てないGOD
 
誰でもなれますGOD

 

たとえ世界が消えるような出来事があったとしても、そこで世界が終わって新しい世界がはじまるということはない。「"世界が消えた"ということがあった」という事実と共に、これまで生きてきた世界は容赦なく続いていく。
だからこそ、考えたこと・感じたことは一つとして無駄になんてならない。あの人生にもこの人生にも、もちろんこれを聞いている「君」の人生にも明確な価値なんてないのだから「誰でもなれますGOD」。一人一人考えてきたこと・感じてきたことは違って、全く異なる人生を生きているのだから「誰にも似てないGOD」。
 
■おわりに
「ドグマ・マグマ」は「死ねば死ぬほど生きられる現代」において「あいらぶゆーを重ねて成りますGOD」するためにどうしたらいいのか?ということについての歌ではないかというのが私なりの結論です。
世界はこんな感じで、私はこんな感じで、誰だってなろうと思えば「神様」(好きなように好きなことをする)になれるよね、というイメージでした。
まとまりのない文章になってしまったので、全体を俯瞰できるようなものを…ということで歌詞を色分けしたものを貼っておきます。分類することに意味があるのかいまいちわかりませんが、個人的にはこんな風に読めましたという一例として残しておきます。
 

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