あんらくし

考えたことのメモなど

個人的「君に届くな」考

かなり今更なんですが、大森靖子さんの「君に届くな」について自分なりに考えてみたので記事にしておきます。
ほぼフィーリングが根拠なので、証拠も正当性もありません。
歌詞に出てくる「私」という人物について掘り下げることで一つの物語として読めるのではないか、という話です。
以下、歌詞を引用しながらはじめからおわりまで解釈しようとしてみた結果です。



陣痛剤で感度悪い朝
→陣痛剤=陣痛促進剤とするなら、それをうっている=臨月の妊婦の朝?
陣痛= 物事を実現させるための苦労とするなら、陣痛剤=何かを実現させるための苦労を促進する=努力するために摂取したもの?
個人的には後者の方がこの歌詞に合っているように感じる。歌詞の主人公は、何かを実現しようと陣痛剤を飲むほど頑張っている人物。
(例)試験に合格するための勉強に集中するために飲む栄養ドリンク・明日学校に行くために飲む睡眠導入剤など


季節を抱くのも出遅れた
→季節を抱く=季節が変わったことを認識して、受け止めることか。季節が変わったことに意識がいかず、ようやく気付いた頃にはもうその季節は終わりかけている。

しろいソフトクリイムがしろいシャツに堕ちて
→食べていたソフトクリームが着ていたシャツに落ちる。それほど気温が高いのか、溶けたことに気づかないほどぼーっとしていたのか。「季節を抱くのも出遅れた」くらいだから、ここでもやはり心ここに在らずだったのでは。

着る服も 切る夢も もうわからない
→着る服は文字通り。切る夢=見切る夢?叶えることを諦めるべき夢のことか。毎日何を着ればいいのか、たくさんある夢(やりたいこと、なりたいもの)のどれを切り捨てればいいのかもわからない。

新作とかもうでなきゃいいのに
変わらない私が 古くなっていくみたい
→歌詞の主人公「私」は夢を叶えるべく陣痛剤を飲んでまで努力しているが、季節を抱くこともソフトクリームを溢さず食べることもできないくらいにはいきづまって停滞している。そんな「私」の都合とは関係なく、世界は動いていて新作は出続ける。

ANATAの蜂蜜 しあわせを保湿してよ
ザラつく唇'君に届くな'
→ANATA=「君」のことか。「ANATAの蜂蜜」=「君の使っている蜂蜜」を指すのではないか。素直にそう書かないのは、「私」と「君」はそれほど近しい存在ではないからだろう。体感だが、「あなた」より「君」と呼ぶ相手との方が距離が近い気がする。
「私」は「君」に好意を持っているから「君」が使っているという蜂蜜(蜂蜜そのものなのか、蜂蜜味のリップクリームとかなのかは不明)を買った。しかしそれを直接勧められたわけではないので「あなたの蜂蜜」としか呼べない。アルファベット表記にすることでより距離が遠くなり、ブランド名のようにも読める。あなた(「君」)が使っているいう付加価値のあるアイテムを買う「私」。しあわせそうな「君」みたいになりたいから、しあわせを保湿してよ。
保湿しなきゃならないくらい「ザラつく唇」なことを、「君」に知られたくないので’君に届くな’。
好きな人にはいつもしあわせでいて欲しいし、自分の苦しみとかつらさみたいな不純物とは無縁でいてほしいから。

※「君」と「あなた」の混同について
憧れの人について言及する時、「大森さんほんと最高です」ともいうし「靖子ちゃんかわいい」ともいってしまう。冷静に距離を認識できる時と、距離とか関係なく「好き」を表明したい時があるため混同している。

ゆらゆら 生きてたい
ゆらゆら イキってたい
wifi飛んでない 場所なら帰りたい
→「私」は目標に向かって努力!!みたいにシャキッと生きるのが得意なタイプではない。「wifi飛んでない」ってだけで帰りたくなっちゃうくらいにはものぐさで適当な人間だ。

ゆらゆら ゆらゆら ゆらゆら ゆららら
ライフ削られて生きたくないわ
→「ライフ削られ」るようなことに耐えてまで生きていたくない。
(それなのに叶えたい目標があるから「陣痛剤」を飲んでがんばっている?)

BABY BABY BABY BABY LOLI LOLI LONELY DOLL
夢の延長戦 地球に刺繍して
→「私」は夢を叶えるために努力をしようとし続けているが、すぐに決着がつかず(結果が出ず)既に「延長戦」の様相を呈している。地球に一針ずつ執念深く刺繍していくように、地道な努力を続けている。

BABY BABY BABY BABY LOLI LOLI LONELY DOLL
血豆ができたならまた歌おう
→刺繍しすぎて(努力しすぎて)「血豆ができたなら」また(「君に届くな」のような)歌を「歌おう」。
(血豆ができるほど努力したことを誰か(「君」)に認めて欲しいとか思っちゃいそうな自分を戒めるために「君に届くな」と歌うのか?)

BABY BABY BABY BABY LOLI LOLI LONELY DOLL
憂鬱はピンボケしてるから
BABY BABY BABY BABY LOLI LOLI LONELY DOLL
好きだけど 届くな それが幸せ
→「私」の「憂鬱」はそれだけで独立した芸術になるほどの「憂鬱」ではないありふれたもの。そんな「ピンボケ」したもの(不純物)は君に届いて欲しくない。好きだから知ってほしいけど、好きだからこそ「私」みたいな君の目に写る価値のないものについて知らないでいて欲しい。君は中途半端で見苦しい私を知らない、それが幸せ。


剥がしたカサブタ ソフトクリームに埋め込んで
私の輪郭が溶けていく
→努力する中でできた傷の上にできたカサブタが自然にとれるまで待てる余裕がないから剥がしてしまう。自分の一部だったそれをゴミ箱に捨てることができず、食べかけのソフトクリームの上になんとなく置いてしまう。そのまま指が沈み込んで、結果として埋め込んでしまう。白い指が白いソフトクリームに埋まって「私の輪郭が溶けていく」。ソフトクリームで指が汚れても引き抜く気にならないだるさ。どこまでがソフトクリームでどこまでが「私」かもわからない、自分のなさ。自我の拡散。

エアコンの風がティッシュペイパーを揺らして
ザラつく生活'君に届くな'
→ソフトクリームにかさぶたを埋め込んで、指を突っ込んだまま動けずにいる私とは対照的に、エアコンはきちんと稼働してティッシュペイパーを揺らしていく。そんな「ザラつく生活」を「君」は知らなくていい。

ゆらゆら生きてたい
ゆらゆら歪んでたい
→先述したように「ゆらゆら生きてたい」し、「ゆらゆら歪んでたい」=陣痛剤飲みながら夢にむかって努力しつつ、ゆらゆら生きてるので唇はザラつくし生活全体もザラついていくという今の状態のままでいたい。
夢は叶えたいが、ゆらゆら気持ちよく生きるのもやめたくない。たまに陣痛剤を飲んだりもするけど、基本的にはザラつく生活のまま夢の延長戦を続けている自分のことを嫌いになれない「私」。

おなかから黒い翼が生えたの
→そんな生活をしていたら「黒い翼」が生えてきた。前に進むための「翼」=生きる原動力はあるが、それは一般的にあるべきとされる「白い翼」ではない。しかし、陣痛剤を飲んだり停滞したりしながらも「私」は「黒い翼」を羽ばたかせて生き続けている。

君が笑ったり 君が泣くのが
私のことだなんて許せない
→「君」は「私」の原動力の一つだが、その人にこのザラついた生活を知ってほしいわけではない。「私」は勝手に「君」のことを好きでいるし、「君」には「私」の暮らしや気持ちのことで心を動かされて欲しくはない。君に届くな。